大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和43年(ネ)1775号 判決

理由

被控訴人主張の請求原因事実は、当事者間に争いがない。

控訴人は、本件各手形は控訴人がさきに栄真建設株式会社にあてて振り出し、被控訴人が割引した約束手形を被控訴人の承諾を得て書き替えたものであり、かつ、その支払について和解契約が成立してすでにその履行を終えていると抗争する。

よつて、先づこれらの手形につき、その振出および被控訴人の取得の経過について調べてみると、《証拠》によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、控訴会社は訴外栄真建設株式会社の依頼に基づき、昭和三九年一一月二四日融通手形として、金額一五〇万円、満期昭和四〇年二月一八日、支払地軽井沢町、支払場所八十二銀行軽井沢支店、振出地軽井沢町、振出日昭和三九年一一月二四日、受取人栄真建設株式会社と定めた約束手形一通(乙第一〇号証の一、二)を振り出したところ、訴外栄真建設株式会社は、右手形を被控訴人に裏書して、その割引を得た。ところが、右訴外会社は、満期近くになつて、控訴会社に対し、『右の手形は金額が大きすぎて落とせないから、小さい金額の約手二通に書替えてほしい。旧手形(乙第一〇号証の一、二)の所持人の諒解を得ているので、旧手形はあとから持つてくる。』と言つて、昭和四〇年二月一八日頃控訴会社をして、乙第一〇号証の一、二の手形の書替えの趣旨で本件手形二通(甲第一、第二号証の各一)を右訴外会社宛に振出させた。ところが、控訴会社の予期に反し、右訴外会社は直ちに本件手形二通を被控訴人の許に持参して割引を受け、被控訴人に裏書してしまい、旧手形(乙第一〇号証の一、二、以下同断)と引き換えることをしなかつた。暫らくして、控訴会社は旧手形が取立に廻されたことを知つて驚き、訴外栄真建設株式会社に対し、その回収方を要求したが、らちがあかないので、結局旧手形も本件手形もすべてその支払を拒絶してしまつた。以上の事実が認められ、右認定に反する原審および当審における証人村瀬克隆の証言は信用できない。

被控訴人が昭和四一年一月一三日本件各手形金債権を被保全債権とし、控訴人主張のとおりの仮差押決定を得てこれを執行したことおよびその後同月二二日控訴人が被控訴人に対して控訴人主張のとおりの割賦金を支払う旨の和解契約が成立し、控訴人がその約旨どおりの支払いを完了したことは、当事者間に争いがない。

ところで、《証拠》を綜合すると、次の事実を認めることができる。被控訴人は、旧手形および本件手形がいずれも満期に落ちないので、その後控訴会社に対しその支払方を要求していたが、満足な回答が得られないまま、昭和四〇年一二月に至つた。そして、その頃被控訴人は、訴外栄真建設株式会社を通じて控訴会社に対し前期手形の支払方を要求し、その目的のために旧手形を右訴外会社に交付したところ、訴外会社はさきに述べたような本件手形振出の事情があつたためか、旧手形を控訴会社に返してしまつた。一方、被控訴人は、旧手形について弁済が得られぬどころか、旧手形が戻らないので、不安を覚え、さきに述べた通り、本件手形金債権について仮差押を執行した。他方、控訴会社は、ようやく旧手形を回収したので、本件手形二通について被控訴人の代理人たる千葉晴夫と交渉し、その結果本件手形二通について前記の和解契約が成立し、これに伴い、千葉は仮差押の執行を解放し、その後控訴会社は右和解契約に基づき本件手形債務の弁済を了した。以上の事実を認めることができ、右認定に反する原審および当審における証人千葉晴夫(原審の証言については一部)の証言および被控訴人本人尋問の結果はたやすく信用できない。

もつとも、本件手形(甲第一、二号証の各一)が依然控訴人の手中にあることは、前認定にそわないようであるが、手形債務者に返還されるべき手形が手形債権者の手許に残されたままになることは時折見られることであり、殊に控訴人会社が前記の事情でようやくにして回収しえた旧手形(乙第一〇号証の一、二)につきその支払義務を認め、しかも金二〇万円の利息を付し、その上これを公正証書(乙第一号証)にするなどの愚をするとは考えられず、千葉晴夫にしても、旧手形が振出人たる控訴会社に回収されてしまつたことを当時知つていた(原審および当審における証人千葉晴夫の証言によつて認められる)のであるから、前記和解が仮差押債権(本件手形)につきなされるものであることを充分承知したものと認められ、証人千葉晴夫が原審においてその旨の証言をした個所が見られるのは、不用意に事の真相に触れたものと言うほかはない。

してみれば、被控訴人の本件各手形金債権は控訴人の弁済によつて消滅したものというべきであり、本訴請求は理由のないことが明らかである。よつて被控訴人の請求を認容した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条に従い、原判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例